【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「いざってときに神具以外の何で戦うんだ? って話だよ」

「……悠久の王といざこざでもございましたか?」

「アイツとなんかあんのはいつものことだろ。<初代>ヴァンパイアの王ってのがなんでそんなに強かったのか今でも謎だぜ」

「ティーダ様が<初代>王に興味を持たれる日が来るとは思いませんでしたぞ! 改心されましたな!」

 不良息子がまっとうな道を選び直してくれたことを喜ぶ父親のように顔を綻ばせる長老へティーダはため息をつく。

「そんなんじゃねぇよ」

 自分にないものを持っている人物に対して嫉妬しているわけではないが、このまま上位王らのいい様にされるのが納得いかない彼の不機嫌さはここからくるのだとわかる。

「……どの国にも言えることだと思うのですが、<初代>王の能力は世界がバランスを保つために不可欠だったものを与えられたと言われております」

(世界のバランス……? そんな話聞いたことねぇぞ)

「与えられたって誰にだよ」

「無論、世界を創造した神々でございましょう」

「くだらねぇ」

 もっと真っ当な意見を聞きたかったティーダは諸に肩透かしを食らった気分だ。存在しているかもわからない者の話をされたところで、信仰心が存在していないこの世界では王こそが絶対的な存在なのだ。

(俺たちを創った神がバランスを保つために争わせたってことか? ……だったら同一種じゃねぇ理由ってなんなんだよ……)

「この世界に生きる者は常々、神より試練を与えられております」

「俺たちは悠久の王に虐げられる試練でも与えられてるってのか?」

 皮肉を口にしたティーダだが、腹は立つもののキュリオが自分の傷を癒したであろうことは事実だ。

(大概キュリオも気まぐれながら人道ってやつがハッキリしてやがる)

「ティーダ様、侮ってはなりませぬ。神が望んでおられるのは我々が共存する世界。バランスを保ちながらも欠けることなく共に歩む未来ですじゃ」

「欠けたらどうなる」

「……破滅です。世界もろとも消滅すると言い伝えられております」

「だったらエクシスって野郎にブチのめしてもらえばいいだろ」

 この世界には神にも匹敵する力を持つと言われている千年王がいる。世界が消滅するというのならば、千年王の力で対抗する以外の選択肢はない。

「エクシス王がそのようなことに興味がおありかわかりませぬが、千年王としての能力は<革命の王>と共に群を抜いていると噂されております。ティーダ様はくれぐれもエクシス王のご機嫌を損ないませぬよう……」

「……マダラは俺に自分の能力を知れって言いやがる。なんだってんだ?」

「マダラ王がなんとおっしゃっていたのです?」

 どのような会話からそういう話に至ったのかはわからないが、どことなく深刻さが含まれているような気がした長老がティーダの顔を覗き見ると――……

「ちょっとー、王ってば帰ってたの? 九十九年目で人間の生き血入りワイン開けた犯人探してるんだけどー。まさか王じゃないでしょうねー?」 

 妖艶な女ヴァンパイアが飲みかけのワイン瓶を片手に暗がりから姿を現した。 

「……神ってヤツの操り人形になるなんざまっぴらだけどな、しばらくは心配いらねぇんじゃねーの」

 ティーダは「うるせーな。また百年待てはいいだろうが」と女ヴァンパイアを適当にあしらっている。

「…………」

(マダラ王が何をお考えかわからぬが、ヴァンパイアの王が力を持つと争いが起きてしまうのは紛れもない事実……)

「大戦など起きぬことに越したことはないが、血が流れると聞くと浮足立ってしまうのがヴァンパイアってものじゃの!」

「……なに長老ってばスキップしちゃってー。もしかしてワイン開けたの長老ー? この調子じゃまだしばらくは死にそうにないわねぇ」

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