【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 ――廊下をゆったりとした足取りで歩き、胸元に抱えている姫君と一方的にだが楽しそうに会話している銀髪の王がひとりの女官の傍を通った。

『おはようございますキュリオ様、アオイ姫様……』

 通路を空けて端に立った女官は、恭しく朝の挨拶をしたところでこの麗しい王の顔の……とある違和感に即座に気づいた。

『おはよう。どうかしたかい?』

 歯切れの悪い彼女の言葉に悠久の王は立ち止まった。  
 
『……、その……キュリオ様の頬に赤みが……』

 まさか王であるキュリオが何者かに頬を叩かれたとしたら死罪にも匹敵する重刑に処されるべきだが、もしや就寝中にどこかへぶつけたのなら手当を……と咄嗟に思った彼女の思考が歯切れの悪さに繋がったようだ。

『……頬?』

 目を丸くしたキュリオは少し考えて。

『あぁ……』

 ふっと笑った彼はちょっと困ったように……だが、それも幸せだと言わんばかりの笑みとなって 心当たりを口にする。

『アオイに目覚めの口づけをせがんだら吸われてしまったんだ。きっとお腹がすいていたのだろうね』

 そう言いながら大事そうに抱えていた愛娘のこめかみに唇を押し当てる。

『まぁまぁっ! なんて愛らしいんでしょうっっ』

 治りの早い彼の頬の赤みは朝の数時間程度で消えてしまったが、この微笑ましい王と姫君の話は瞬く間に城中へと広まり、従者という従者、女官という女官や侍女らが赤みが消えるまでの間、隠れてキュリオの尊顔を拝んではうっとりと黄色い声を上げていた。

『……随分注目を浴びてしまったものだな……』

 ありもしない迷惑な噂であれば否定するのは当然のこと、別に隠す必要もなく事実であるためキュリオが行動に移すことはしなかった。
  
『……?』

 不思議そうにキュリオの顔を見上げているアオイにキュリオは嬉しそうに微笑んで。

『お前が与えてくれるものならば、私は決して拒みはしないということさ』

 膝の上で大人しくしているアオイを抱き上げて、キュリオは誓うように花弁のような唇のすぐ傍へ口づける。
 民は仕方なくとも、好奇な目に晒されることをあまり好まないキュリオはこの日、上機嫌だったのは言うまでもなかった――。

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