【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
予期せぬ不安定な未来を告げられたキュリオの胸中は複雑な感情が渦巻いていた。
すると、押し黙ってしまった空色の瞳を持つ美しい王の反応をジッと見つめていた<初代王>の雰囲気が和らいで。
"まだ時間はある。気になることがあったらまたここへ来るといい"
光を纏った彼の口元が緩やかな弧を描いた気がする。
「…………」
気になることが無いわけがない。一体何者によって齎される重要な決断になるのか、それは誰を巻き込んだものなのか――？
日の光に溶けて透けるように<初代王>の姿が見えなくなってもキュリオはしばらくその場を動けずにいた。
「キュリオ様ー！」
やがて遠くで名を呼ぶ声が聞こえると、ようやく我に返ったキュリオは、<初代王>が居たはずの場所へ向かって一礼すると絶景とも言えるその場から舞うように降下する。
数秒足らずで地面に急接近すると、翼を出現させたキュリオは風にのって人だかりのほうへ飛翔した。
"そうか……この時代には<千年王>が居るんだったね。よりによって<精霊王>か……。なかなか厄介な王が誕生したものだ"
意味深な言葉を残した<初代王>の言葉がキュリオの思考を支配する。
(<精霊王>が厄介……？ エクシスの選択によって私の決断が無意味なものになるとはどういう意味だ？)
通常の人間ならば絶命は免れない高さから風を受けて地上へと降り立った先では<大魔導師>ガーラントが驚きを隠せない様子でそこに立っていた。
「おお、キュリオ様！ いま空から参りましたかな！？」
神になど会ったことがない人間の誰もが思う共通の理念がある。それはきっとキュリオのように美しく崇高な思想を抱いた存在なのだろう……と。
「呼んだか？」
ガーラントの背後で無数の研究者や地質学者が黙々と土を掘り起こしている様を見ながら、キュリオの思考は<初代王>の言葉が渦巻いて、まるで出口のないトンネルを彷徨っているかのようだ。
「はい！ ここら一体で生活の痕跡があったのは確かなのですが、居住空間があったとは到底思えませぬ」
「……なに？」
「もう少し範囲を広げて調べてみるつもりですが、衣食住のうちほぼ食の痕跡しか見つからぬのですじゃ」
「…………」
まさか<初代王>の思念体と顔を合わせることになろうとは思ってもいなかったキュリオは、当初の目的から大きく軌道を外れ、悠久の歴史を紐解く手掛かりを得ることから逸脱してしまっていたことに気づく。
キュリオは願ってもない人物との出会いにも、悠久の歴史を語ってもらおうとは微塵も思えなかったほどに彼の話の内容は衝撃的だった。
(あの御方にとってもそんなことはどうでもよいほどに、これから起きることへの憂いのほうが大きいのだろうな……)
後方に連なる深い山の中で、鎮座する巨大な一枚岩を振り返ったキュリオ。
(聞きたいことは山ほどあるが……まだ出揃っていないピースが多すぎるのだろうな)
<初代王>の話の内容からしても、まだ詳しく教えてくれる段階にないことはわかった。
キュリオ自身がこれから起きる問題にまだ直面しておらず、現段階でその話をしても現実味がなく、ただ長い時間悩むことになってしまうであろうことを彼はわかっているのだろう。
"数千年前からその予兆はあったのさ。これまでの<悠久の王>が決して選ばない選択肢が君の瞳にもいずれ見えてくるはずだ。それを君がどうするか……私も興味がある"
(……数千年も前から予兆があったにも関わらず私に委ねられた理由はなんだ？)
考えても問題の入口にさえ立てていないキュリオは頭を振って思考を切り替えると、たったひとつの自身の願いに辿り着いた。
(アオイが天寿を全うするその日まで……なにも起こらなければ私はただそれだけでいい)
脳裏で愛らしく笑う、たったひとりの愛娘の姿がそこにはあった――。
すると、押し黙ってしまった空色の瞳を持つ美しい王の反応をジッと見つめていた<初代王>の雰囲気が和らいで。
"まだ時間はある。気になることがあったらまたここへ来るといい"
光を纏った彼の口元が緩やかな弧を描いた気がする。
「…………」
気になることが無いわけがない。一体何者によって齎される重要な決断になるのか、それは誰を巻き込んだものなのか――？
日の光に溶けて透けるように<初代王>の姿が見えなくなってもキュリオはしばらくその場を動けずにいた。
「キュリオ様ー！」
やがて遠くで名を呼ぶ声が聞こえると、ようやく我に返ったキュリオは、<初代王>が居たはずの場所へ向かって一礼すると絶景とも言えるその場から舞うように降下する。
数秒足らずで地面に急接近すると、翼を出現させたキュリオは風にのって人だかりのほうへ飛翔した。
"そうか……この時代には<千年王>が居るんだったね。よりによって<精霊王>か……。なかなか厄介な王が誕生したものだ"
意味深な言葉を残した<初代王>の言葉がキュリオの思考を支配する。
(<精霊王>が厄介……？ エクシスの選択によって私の決断が無意味なものになるとはどういう意味だ？)
通常の人間ならば絶命は免れない高さから風を受けて地上へと降り立った先では<大魔導師>ガーラントが驚きを隠せない様子でそこに立っていた。
「おお、キュリオ様！ いま空から参りましたかな！？」
神になど会ったことがない人間の誰もが思う共通の理念がある。それはきっとキュリオのように美しく崇高な思想を抱いた存在なのだろう……と。
「呼んだか？」
ガーラントの背後で無数の研究者や地質学者が黙々と土を掘り起こしている様を見ながら、キュリオの思考は<初代王>の言葉が渦巻いて、まるで出口のないトンネルを彷徨っているかのようだ。
「はい！ ここら一体で生活の痕跡があったのは確かなのですが、居住空間があったとは到底思えませぬ」
「……なに？」
「もう少し範囲を広げて調べてみるつもりですが、衣食住のうちほぼ食の痕跡しか見つからぬのですじゃ」
「…………」
まさか<初代王>の思念体と顔を合わせることになろうとは思ってもいなかったキュリオは、当初の目的から大きく軌道を外れ、悠久の歴史を紐解く手掛かりを得ることから逸脱してしまっていたことに気づく。
キュリオは願ってもない人物との出会いにも、悠久の歴史を語ってもらおうとは微塵も思えなかったほどに彼の話の内容は衝撃的だった。
(あの御方にとってもそんなことはどうでもよいほどに、これから起きることへの憂いのほうが大きいのだろうな……)
後方に連なる深い山の中で、鎮座する巨大な一枚岩を振り返ったキュリオ。
(聞きたいことは山ほどあるが……まだ出揃っていないピースが多すぎるのだろうな)
<初代王>の話の内容からしても、まだ詳しく教えてくれる段階にないことはわかった。
キュリオ自身がこれから起きる問題にまだ直面しておらず、現段階でその話をしても現実味がなく、ただ長い時間悩むことになってしまうであろうことを彼はわかっているのだろう。
"数千年前からその予兆はあったのさ。これまでの<悠久の王>が決して選ばない選択肢が君の瞳にもいずれ見えてくるはずだ。それを君がどうするか……私も興味がある"
(……数千年も前から予兆があったにも関わらず私に委ねられた理由はなんだ？)
考えても問題の入口にさえ立てていないキュリオは頭を振って思考を切り替えると、たったひとつの自身の願いに辿り着いた。
(アオイが天寿を全うするその日まで……なにも起こらなければ私はただそれだけでいい)
脳裏で愛らしく笑う、たったひとりの愛娘の姿がそこにはあった――。
