不機嫌なキスしか知らない
「あ……」
人気のない中庭に入ったら、ベンチに座っている紘を見つけた。
体育祭が始まったばかりだからみんな校庭に集まっているのに、こんなところにいるってことは、やっぱり落ち込んでいるのかもしれない。
ゆっくり近づいて、そっと隣に座ったら、紘は驚いた顔をしてこっちを振り返る。
私が来たことに気付かないくらいぼーっとしていたらしい。
「なに、紗和から来るなんて珍しいじゃん」
「……大丈夫?」
「何が?」
平気そうな顔を、している。
誤魔化すみたいに、分からないって顔をする。
だけど紘の本心なんて一度だって見えたことないから、この不機嫌な顔がいつも通りのそれなのか、落ち込んでいるのかもわからない。