不機嫌なキスしか知らない



麗奈先輩のことだよ、って言おうとして。

それすら聞きたくないかもしれないと思って、やっぱり口をつぐむ。


そんな私を見かねたのか、紘が


「麗奈のこと?」


と、私の目を見ないまま言う。

小さくうなずいたら、紘は「別に」とつぶやいた。




「でも……」





紘が今でも麗奈先輩のことが好きなのか、分からない。

私はきみの、不機嫌なキスしか知らないから。


私が知ってる「本当」のきみは、あの日見たあの涙だけだと思うから。


だからこそ、きみが今どれだけ傷ついているのか分からないんだよ──……。




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