不機嫌なキスしか知らない








「あ……」


その日の放課後。


そろそろ帰ろうと思って廊下を歩いていた時、笑い声が聞こえてふと窓の外に目を向ける。


茶色い短めの髪、爽やかな笑顔、腕まくりしたキャメル色のカーディガンの男の子。

そして、黒髪ロングに周りより少しだけ長いスカートの女の子。

……圭太と、菫ちゃん。


一緒に帰るのかな、と昇降口から出てくる2人を見ながら思う。

よかったね、圭太。

「どっちから誘ったの?」って、明日からかってやろうかな。


……よかったね、なんて、少しも思えないけど。



そんな自分の汚い気持ちに嫌気がさして、ふらふらと廊下を歩く。

と、少し高い声が小さく響いたのが聞こえて、ふとひとつの教室の前で足を止めた。



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