わすれられない初恋の話
ポケットにダイヤを入れた夜


「ココア好きなんだ?」

「あ、うん」

「俺も、飲み物の中で1番好き」



それが、俺、黒田敦士(くろだ あつし)と、沖田菜々(おきた なな)が交わした最初の言葉だった。

10年経った今でも忘れられないどころか、逆に思い出す頻度が高くなってきたような気すらするのだから、自分がいかに未練がましいかを思い知る。

28歳になった今ならきっと、もっと上手くやれるのに。
きっともっと、傷付けずに済んだのに。

あの頃の自分はどう足掻いたって18歳の高校生で、大人と子供の間だったのだ。


「黒田、お前今日どうすんの?」

「今日?」

ちょうど会社の定時頃、仕事が一段落ついたのでパソコンの電源を落としていると、同期の柴田が声をかけてきた。

「同期だけで忘年会しようっつってたやつ。来るだろ?」

「あれ、今日だったっけ?なんでわざわざこんな日に」

「だーから、俺らの同期みんな相手いねえからちょうど良いなって話したじゃねえか」

柴田は、口は悪いが仕事は出来る奴だ。
この会社に入って6年。
同期の中で1番最初に辞めるんじゃないかと噂された柴田が、今では1番の出世頭だ。

6年前は10人程いた同期は、5人にまで減った。
仲間が辞めて行くのは辛かった。だからこそ、この残った5人の仲はとても良い。

< 1 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop