足踏みラバーズ
「瑞樹のは、残してるんだね」
「うん。唯一残した友達の番号」
にかっと笑う蒼佑くんの笑い方が、瑞樹と少し似ていた。
それも隠さず口にしたけど、おれの憧れの男だから、と笑っていた。
「蒼佑くん、あたしのも見ていいよ」
さっき彼が話してくれたみたいに、この人と仲がいいだとか、結婚式に言った賢二ってこの人だ、とかできるだけ、蒼佑くんの知らない私が大きくならないように、いっぱいいっぱい話をした。
「蒼佑くん、LINE見て」
ここの、瑞樹との、と彼にタップとスクロールを繰り返し操作させた。
初めは不思議に見ていたけれど、段々と眉間に皺が寄ってきて、ぼた、と画面が一粒の水で拡大された。
「いっぱい、おれのこと話してるじゃん……」
どうさせたいの、と目頭を押さえて、声を震わせていた。
「だって蒼佑くんのこと、蒼佑くんに聞けなかったら瑞樹に聞くしかないんだもん」
あたしだって、ただ待ってるだけじゃなかったんだから、と肩をつついた。
「蒼佑くん、瑞樹にあたしの様子見に行くようにたきつけたでしょ」
「え!? なんで知って……」
「女の勘ですよ」
「女の子って怖い……」
「中島くんにも聞いたでしょ」
「なんでそこまで……」
「問い詰めた。二大隠しきれない王選手権の入賞者だから、その二人」
何それ、と目元を拭う蒼佑くんに、蒼佑くんもランクインしたから、今三大になったけど、と言ってのける。
「浮気、知らないふりするのしんどいから、やるんならうまくやってね」
意地悪く、ぼろが出そうなところをつついてみたけど、やらないから! とすぐさま否定してくれて、安堵した。
根に持つタイプだから、きっと何度も口にしてしまうかもしれない。
そんなことを言っても、罵られても一緒にいたいと言う彼に、どМか、と突っ込んだ。
「瑞樹に、すごく怒られた。こんなときに一人にさせるなって。その、……別れたっていうか、距離があるの、あいつは何も知らなかったから」
「そっか」
「でもあいつ、元はと言えば俺のせいだからって。ごめんって。おれ、瑞樹の頭下げてるとこ、初めて見たよ」