妖狐の花嫁
「その咲ちゃんの記憶から、華を消す。」
「………え…?」
静かに耳へ入ってきた彼の言葉に
私は思わず───体を固まらせた。
黒田くんはクスクス笑いながら
そんな私の様子を楽しんで見つめる。
(私の存在を……消す?)
言っている意味が分からず
思考を停止させる私へ
彼は楽しそうな声色で 続きを言った。
「俺の妖力で、彼女の中から華との記憶を抹消する。」
「………や、めて…。」
「咲ちゃんはその後 華を見ても何も分からない。」
そう言いながら
鏡の中の咲に向かって 彼が指を指す。
(嫌……やめて…お願い、やめて……!)
彼の思惑は分かっている。
こうやって…徐々に私の周りの人間から
記憶を消していくつもりだ。
そして私の居場所を
完全に消すつもりだ。
「ばいばーい、咲ちゃん。」
「やっ…やめてぇえぇぇええええ!!!」
私が泣き叫んだ瞬間
黒田くんは笑みを深めながら
咲に向けて───呪文を唱えた。