妖狐の花嫁






そして彼が呪文を唱えた瞬間

鏡に映っていた景色が
ブチッ---と、真っ暗になって消えた。





───咲との関係を 消された。





私は何も映らない鏡を呆然と眺め

それからゆっくりと…彼を見上げる。




そこにあるのは

愉快そうに歪んだ笑顔を浮かべる
黒田くんの顔───。





彼はクスクスと笑いながら
指を鳴らして 鏡を消すと

私の頭を優しく撫でながら、私の目の前で腰を屈めた。








「………ひ、どい…。」

「酷くない。
華が約束破るからいけないんだよ。」

「っ……だからってこんなこと…!!」








泣きながら彼を責めるけれど

黒田くんは動じない様子で
淡い笑みをこちらに向けたまま。




入らない力を振り絞って

彼の胸を何度も叩くけれど、
それは弱々しくて 何の意味もなかった。







「華の居場所はここだけ。
ずっと、俺の側にいればいいの。」

「………嫌だ……
貴方なんかの側に…いたくない……。」

「…それでも、華はもうここにいるしかないんだよ。」







泣き続ける私の頭を
自分の胸へと引き寄せて、

黒田くんは優しく私の頭を撫で続けた。





トクン、トクン…と鳴る彼の心音が
静かに伝わってきて


余計に 涙が溢れてくる。







……どうして、こんな目に合わないといけないの…?








そればかりが頭を巡って、
私は声をあげて泣いた。


彼の腕の中で。





彼はそんな私を黙ったまま撫で続けて

私が泣き疲れて眠るまで
ずっと私を抱きしめていた。





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