恋してバックスクリーン

バレンタイン当日は、火曜日。定時で職場を後にすると、慌てて家に帰り、ごちそうを作る。大したものは作れないけれど、喜ぶ顔が見たいから。

あ。寿彦さんは、無表情やった。

キッチンで奮闘する私の耳に、鍵を開ける音が飛び込んできた。

「おかえりなさい」

笑顔で出迎えると、ぐっと引き寄せられる。耳元で「ただいま」と、低い小さな声が響いた。

「ごはん、作ってくる!」

このままずっとくっついていたいけれど、晩ごはんを作らないと! すぐに自分から離れた。

「いいにおい」

お腹をさすりながら、ボソッとつぶやくと、ドカッとソファに座って、ネクタイを緩めた。

その姿がなんだかセクシーに見えて、ドキドキさせられる……。

「帰ってきたら、手洗い! うがい!」

こんなにドキドキさせられたら、ごはんを作るどころではなくなってしまう! そう思い、寿彦さんを部屋から追い出した。
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