恋してバックスクリーン
ふたり揃って、バッティングセンターを後にする。寒さを理由に、寿彦さんがぎゅっと手を握った。

ほら。私、愛されている。言葉が足りなくても、手の温もりでわかるよ。

『久しぶりに会えて、うれしかった』

気になる手紙と、チョコレート。誰からもらったのか、気になるなら聞けばいいやん。

「もうすぐバレンタインやね」

遠回しに、探ってみる。

「寿彦さん、チョコもらえたり、するんかなぁ?」

途切れ途切れの、ぎこちない質問。

「莉乃ちゃん、くれるでしょ?」

……質問を質問で、返された。その横顔は、相変わらずの無表情だ。

「まぁ、ね。どんなチョコがいい? トリュフ……とか、好き、かな?」

「おいしければ、なんでも」

私はこんなにも動揺しているのに、寿彦さんはいつもと変わらない。やっぱりアレは、浮気相手からの本命チョコじゃないってことやね。

ほんの少しだけ、安心する。でも、真実はわからないままだ。

「あ、私、散らかしたまま来たから、掃除する!」

温かい、大きな手から離れて駆け出す。私を惑わした真っ赤な包装紙の箱を、戸棚の上段に隠すために……。



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