恋してバックスクリーン
食事のあとは、本命チョコレートを。

「これ、めっちゃおいしい生チョコ。一緒に食べよう?」

でも、こっぱずかしくて『バレンタインやから、本命チョコレートをあげる』なんて、言えない。

「あ、そうだ」

寿彦さんが突然席を立ち、ビジネスバッグの中をあさり始めた。

「義理チョコ」

そう言って、テーブルの上に並べられたチョコレートたち。でも、その中に、真っ赤な包装紙の箱に入ったトリュフは、ない。

アレは……義理チョコではないの? と、マイナス思考になる。

「どうしたの?」

寿彦さんの声にハッとする。作り笑いでううんと、首を横に振った。

「いただきます」

数あるチョコレートの中から、寿彦さんは迷わず私の生チョコを選んでくれた。でも、真っ赤な包装紙の箱が、頭から離れなかった。

「食べてみ?」

ぼんやりとする私の前に、ピックで刺した生チョコを差し出した。こっぱずかしくて、ぱくっと食いつけない。

「やきもち?」

「え?」

「莉乃ちゃん以外の女性からチョコ、もらってきたから」

「べ、別にやきもちなんか……」

テーブルの上に並べられたチョコレートは、義理チョコだからなんとも思わない。問題は、戸棚の上段にこっそり隠されたチョコレートよ。

「……かわいいな」

聞き間違いじゃなければ、生チョコを食べない私に今、『かわいい』って言った?

結局、自分で生チョコを食べた寿彦さんを、真顔でみつめた。

「食べたければ、どうぞ」

あ、いや。チョコレートをうらやましく思ってみつめていたのではなくて。

あの、戸棚に隠されたチョコレートは、いつ食べる気なんやと思って。

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