恋してバックスクリーン
無愛想な男、誤解を解く

「お疲れ様です」

外回りを終えて、職場に帰ってきたのは十八時を少し過ぎた頃だった。

「お疲れ様、莉乃。私、もうすぐあがるけれど」

穂花が遠慮がちに、私に声をかけた。

「うん。私も日報だけ書いたら……」

「わかった。涼介くんが四人で食事をしよう、だって」

海津さんの心遣いはありがたいけれど。寿彦さんとは、会いたいような。会いたくないような。

「うん……。ありがとう」

海津さんがいた方が、寿彦さんも私の言うことを、信じてくれるかな? でも、浮気のことは、問い詰められない。さすがにふたりの前で恥をかかせるわけにはいかないから。

急いで日報を書いていると、デスクに置いた携帯電話が、バイブの音を響かせた。

あ……。加茂さんからの着信、だ。出ようか、出まいか、悩んだ。でも、やっぱり無視することはできない。

「はい。羽島です」

『莉乃ちゃん? 加茂です』

タメ口だけでは足りないのか、名前で呼ぶようになってしまった……。

「どうも。お世話になります」

『なに? その他人行儀な感じ』

「仕事のお電話でなければ、失礼します」

『ちょっと、待てよ?』

勢いよく電話を切ろうとした私に、加茂さんの口調がきつくなった。

『会いたいんだけれど?』

『会いたい』って言われても……。寿彦さんと私の仲を引き裂こうとする人に、会いたいなんて思わない。

「まだ仕事があるので」

『待ってるよ。ずっと』

そう言うと、一方的に電話が切れた。待ってる……って、どこで? なんだか加茂さんがストーカーみたいに思えて怖くなってきた。

早く日報を書き終えて、穂花と一緒に職場を出よう。寿彦さんに会って、誤解を解いて、一緒にいてもらわないと困る。

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