恋してバックスクリーン
無愛想な男、浮気疑惑

このあたりの草野球チームは、二月に試合をしない。プロ野球も開幕が三月末で、暖かい地域でキャンプをする時期だから。

でも、寝ても冷めても野球人な寿彦さんは、休みになると早起きをしてひとり、バッティングセンターに向かった。野球は、寒がりでものぐさな寿彦さんを動かす、原動力となっていた。

あの……。私は置いてけぼりですか!? せっかく同棲を始めたのに、つまんない。時計を見ると、まだ朝九時。休みの日くらい、ゆっくりしようよ……。そう思いながら、ベッドからノソノソと這い出る。

小さなテーブルに、クロワッサンがひとつ。いくつか買ってあったのに、残ったのはひとつだけか。ひとつだけでも残してくれているのが、寿彦さんらしいけれど。

スティックカフェオレ、どこかにあったはず? 戸棚を見上げると、上段に置いてあるのに気がついた。ポットでお湯を沸かしながら、椅子にのぼるとその箱を掴んだ。

「わっ!」

箱と一緒に、戸棚の中のものがなだれ落ちた。カフェオレのストックだとか、見かけによらず甘党の寿彦さんらしい、お菓子だとか。

「もう、寿彦さん」

ブツブツ言いながら拾い集めると、真っ赤な包装紙に包まれた、正方形の箱をみつけた。『Valentine's Day』のシールが貼られたそれを裏返すと、一度開封された跡がある。

二月だから義理チョコを、職場の方からもらったのかな? でも、バレンタインには少し早い。職場の方からならば、当日にもらうやんな……。

ドキドキしながら貼り直されたシールをそっと剥がすと、中身を確認した。




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