私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。



ふと、顔を上げると、外側の一護の肩が濡れている事に気づいた。


私に、傘を傾けてくれてるんだ……。

高鳴る鼓動が、切ない。

こういう優しさを知っているから、きっと私は一護の事を諦めようとしても、出来ないんだ。

私は、一護の手の少し上から傘の取っ手を掴み、傘を一護の方へと傾けた。


「椿……?」

「………もっとそっちでも大丈夫」

「……悪いな」


今、普通に会話出来てた……。

いつもみたいな喧嘩っぽい話し方じゃないから?

ううん、私がそうしたからだ。
だって、一護はいつも私と向き合おうとしてる。
私が突き放しているだけだ。


傘の取っ手に重なる手が温かい。
それを名残惜しむように離す。


「やっぱ変わんねぇな、椿は」

「え……?」


一護の言葉の意味が分からずに顔を見上げると、その表情に息を呑む。

久しぶりに向けられる、笑顔だったからだ。

一護が、笑ってる……。
その笑みが、私に向けられるなんて……嬉しいけど、どうして…。


< 69 / 211 >

この作品をシェア

pagetop