リストカット依存症
それは、新年を迎えて数日経った日のことだった。
市外に遊びに出ていたわたしと麻美は、麻美の祖母の家に行った。
そこにいたのが、あの人
麻美の兄…恭介さんだった。
前から何度か会ったことはあったけど
改めて顔を合わせるのは初めてだった。
「…お兄ちゃん、何作ってんの」
「生チョコ。いる?」
「圭香、チョコ好きだよね。
食べな」
「え……?」
麻美の方を向いたときには、チョコを口のなかに押し込められていた。
「……あ…おいしー」
「でしょ?お兄ちゃん料理だけは得意なの」
そう言った麻美は、わたしの耳元でこう囁いた。
「お兄ちゃんって、人見知り激しいから、普通あんまり知らない人には自分の作ったものとか食べさせないんだよ」
顔が熱くなった。
理由はわからないけど
わたし、少しだけ心許されてる。
素直に嬉しかった。
わたしはその後、恭介さんから目を離すことができなかった。