ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
『トン、トン、トン』


ノックを三回ほど打ち、相手の返事を待つ。


「はい」


社長の声を確認し、「失礼します」とドアを開けた。


「社長、お呼びでしょうか?」


ちらりと目を向けると、副社長の大輔さんはいない。
きっとこの人の商談の尻拭いをさせられているんだろうな…と、気の毒半分な思いでいた。



「君に託した身上書の件だけど」


デスクに両肘を付いた人は、上目遣いに私のことを捉えた。


「読んだか」


抑揚の少ない物言いのせいか、やっぱりハテナマークが入っているように聞こえない。


「読ませていただきました」


全部じゃないけれどね。


「で、いつにする」

「は?」

「食事。いつなら空いている」


ペラリ…と分厚いスケジュール帳を広げる。
その様子を瞬きしながら見つめ、もしもし?と尋ねたくなった。



「あの、その件についてですが……」


ようやっと声を出せた私に視線を戻した社長が、まるで埴輪のような口元をする。


(ププッ)


間抜けそうに見えて可笑しくなり、一瞬笑いを噛みしめた。


「何だ?」


わかるくらいの抑揚で質問される。


「あ…あの、そのお食事の件ですが、ご辞退させて……」

「ダメだ」

「えっ…」

「辞退権限は君にはない」

「はっ?」

「僕は君と食事をしてみたい。社長としてではなく、個人的な意味合いで」

「え…えー…と」


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