テレビの向こうの君に愛を叫ぶ

ぴゅうっと吹き付ける冷たい風にもびくともせず、表情もお面のように変えずに、いくまるは「なんとなく」と一言答えた。


「なんとなく…好きな人の好きなものを、俺も好きになってみようって思った。それだけ」


そう言って、いくまるは私からひょいっとイヤホンを取り上げると、再び自分の耳にはめた。



好きな人の…好きなもの?

それって、つまり…


私!?



「え、ねぇ!今のどういう意味?」


私はいくまるを揺する。
いくまるは知らん顔であっちの方を向いてしまっている。


「ねぇってば!」


私はいくまるの耳から半ば強引にイヤホンを取り上げた。

いくまるは無機質な目で私をぼんやりと見つめ、それから、「鈍感バカ」とぼそっと呟くと、私の手からイヤホンをさらって同じ学校の制服の男子生徒のもとへ小走りで駆けていってしまった。



私は好きじゃないのに。
私には彼氏がいるのに。



でも、相手は澪君。
今話題の急成長中のアイドル。


「彼氏がいる」って言えばいい。その通りだ。
でも、もし、「誰?」と聞かれたら私はきっと答えられない。

私は嘘が苦手なんだ。

昔から隠し事が苦手で、嬉しいことも、悲しいことも、後ろめたいことも、みんな顔に出てしまう。

分かりやすい。
それが私の短所。
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