テレビの向こうの君に愛を叫ぶ

私たちは手を繋いだまま、部屋を出た。
リビングで野球の試合を観戦する両親を横目に私たちはそっと玄関から抜け出した。
あとのことはきっと、なーちゃんがうまいこととり繕ってくれるだろう。

外に出ても、私の手は澪君の手に繋がれて、彼のポケットの中にあった。そのせいで、自然と距離も近くなる。
今にも消えそうに点滅を繰り返す電灯を何本も追い越して、私たちは駅を目指して歩き続けた。
時間のこともあって、いつもより少し早く運ばれる足。
マフラーで口元、いつもの黒いハットで目元を隠した澪君は、たまに私を気遣うようにこちらを振り返る。
その優しさが嬉しくて、上がってしまう口角は、澪君と同じようにぐるぐるに巻かれたマフラーに隠された。
繋がれた手から伝わる温もりが、染みるような寒さをほぐしていく。


「雪、やっぱり降るのかな」


ポツリと私は呟いた。
澪君は私を顔を見ると、「そうなの?」と笑った。


「今朝、天気予報でやってたの。…ホワイトクリスマスになるかもって」


「そうなんだ!…すげーロマンチック」


澪君が私の手を握る手に力が込もる。私も優しく彼の手を握り返した。


「澪君は雪、好き?」


今日1人寂しく出た最寄駅は、赤や緑の電飾を身に纏って、さらに華やかさを放っていた。
小さな駅舎の割には風情がある。

澪君はちょっぴり驚いた顔をして、それから、「好きだよ」と答えた。


「俺は東京生まれ東京育ちだから、雪が降ったり、積もったりするのがすごく珍しくて。俺が小学生の時だったかなぁ。ものすごい雪が積もったことがあって。その時、妹と一緒にでっかい雪だるまを作ったんだ。それが楽しくって、それ以来、雪が降るとなんか、ワクワクするんだよね」


子どもみたいに目をキラキラさせる澪君に私は心をときめかせる。
こんな澪君をこんなに近いところで見ていられる。
それって奇跡だよ。


ボロの最寄駅から常磐線に乗って二駅。
バスに揺られながら明日のことに想いを馳せる。車窓に反射して映るわたしの顔は、今までの私の中で一番輝いている気がした。
ちょっぴり立派な駅舎を抜けて、私たちはバスターミナルを目指す。
やはりクリスマスなのもあって、人が多い。
澪君は変装にメガネとマスクを追加した。
私も用意していたマスクをかけた。


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