スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


「ジャケット、落としてしまったから」


かろうじて見つけた理由を伝えてみたけれど、識嶋さんは「いい」と小さく言葉を落とすと、細いけれどがっちりとした体を私に乗せて。


「今は、こうしてたいんだ」


顔を首筋にうずめながら囁いた。

酒気を帯びた熱い吐息が私の首をくすぐって思わず身じろぐ。

すると識嶋さんは私を背後から抱き締めながら横になった。

かかっていた重さからは介抱されたけれど、腹部に回された腕に緊張して思わず呼吸を止めてしまう。

言葉も出ないままに体を強張らせていれば、再び静かな彼の声。


「俺は、お前を知りたい……」


その甘い言葉に、熱い声に。


「心を……お前という人間を、もっと」


欲しがる想いに、自分の中に芽生え始めていた感情が一気に膨れ上がっていく。

大輪の花が咲くように、鮮やかに。


「許して……くれるか?」


彼の少し渇いた唇が、首の後ろに遠慮がちに触れてくる。

肩の曲線をなぞるようにゆっくりと移動する感覚に、どう離れるかなんて考える余裕さえ奪われた。


< 117 / 202 >

この作品をシェア

pagetop