スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-


エントランスから出れば、湿気を含んだ暖かい風が私を出迎えた。

今は梅雨真っ只中。

お肌的には助かるけど、髪の毛は纏まりにくい日々を送っている。

今も、湿気で乱れるのを防ぐために緩くお団子を作って完全にプライベートモードの恰好だ。

天気予報では今夜は時々雨とのこと。

今は降っていないけど、降られる前にと足を踏み出した。

コンビニはタワーマンションを出て大きな道路を挟んだ向かい側にある。

徒歩で五分くらいの距離だ。

ドーナツを買ってすぐに戻れば万が一雨に降られても大して濡れないはず。

それでも一応心配で、星のない夜空を見上げた時。


「……高梨?」


識嶋さんが、前方から歩いてこちらにやって来た。

リムジンを使って帰宅する彼は、いつもなら地下駐車場かマンション入り口の横にある車寄せのところから登場するはずなのに、何故か今日は道路の方から門をくぐってやってきたことに私は目を見張る。


「おかえりなさい」

「どこかに行くのか?」

「ちょっとコンビニに行こうかと。それより珍しいですね、徒歩で帰宅なんて」

「……これ、買ってきた」


言いながら、識嶋さんは手に提げていたよく見る白いビニール袋を私に差し出した。



< 126 / 202 >

この作品をシェア

pagetop