スイート・ルーム・シェア －御曹司と溺甘同居－

Floor 12

『この間は楽しかったですね。今度は私のオススメのお店に行きませんか？』


まるで好きな人にアプローチするようなメールをくれたのは、先日出会ったばかりの西園寺さんだ。

彼女からの初めてのメールに、私も楽しかったこととぜひ行きたいという文章を作って返信する。

そしてスマホをトートバックの中にしまうと、顔を上げて再び夜道を歩きだした。

耳をすませて背後を意識する。

以前、ストーカーらしき人物に後を追われてからは遅い時間の帰宅時はこうして警戒するようになっていた。

けれど、あれ以来幸いにもつけられているような気配は感じていない。

実はこのところメールもなくなっていて、諦めてくれたのかもしれないと考えている。

ぜひ諦めていて欲しい。

そうすれば私は心安らかに毎日を過ごせるのだから。

でも、そうなると識嶋さんとの家にいる理由がなくな……って、理由って何！

まるで理由があればまだお世話になりたいみたいじゃないの！


「最近ちょっとおかしいよ私」


思わずひとり零したところで、小気味のいいヒールの音を鳴らして歩く私の横に、見たことのあるリムジンが停まった。

白いロールス・ロイス、識嶋さんの送迎用の車だ。

案の定、後部座席のウィンドウが下がり識嶋さんが顔を覗かせる。