スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「帰るなら乗っていけ」
帰宅先は同じ家。
断る理由はないし、何よりいつあの足音が……と不安になりながら帰らなくていいのはありがたい。
私は周りに知り合いがいないかを確認してから、運転手さんに促されて後部座席へとお邪魔する。
そして、何やら資料に目を通している識嶋さんの向かいに座ると、車がゆっくりと動き出した。
「乗せてもらってありがとうございます」
座った体勢で軽く頭を下げると、識嶋さんが資料から視線を上げて私を視界にとらえると。
「いや、丁度話したいことがあったからな」
そう話ながら資料を黒いレザーのビジネスバッグにしまった。
「何ですか?」
「いよいよ縁談相手と会わないとならなくなった」
長い足を組み直して識嶋さんがハッキリと声にしたそれは、ついに私が協力する時が来たのだというものだ。
「正直なところ、家の為の縁談話とか私には理解しがたいです」
以前にも少し触れた私の意見を再び零せば、識嶋さんは伏し目がちに視線を足元に落とす。