溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
社内恋愛が禁止されているわけではないけれど、付き合っていることは秘密にしていた。
周囲に気を遣わせたくないし、なにより瀬戸くんの女子人気を考えると恐ろしい。ただでさえ、私は八年前から付き合っている彼氏がいると思われているのだ。
瀬戸くんの家の状況もあるし、今わざわざ公にすることもないと、彼と話し合って決めたことだった。
改札を抜け、オフィスビルまで徒歩五分の道のりを歩く。数メートル後ろを瀬戸くんが歩いているのだろうなと思うと、くすぐったい気持ちになった。
ふわふわと足取りが軽いなんて、初めて恋をしたときみたいだ。しばらく忘れていた感覚に、頬がにやける。
いけない、そろそろ仕事モードに頭を切り替えなきゃ。
エントランスの自動ドアをくぐろうとしたときだった。
「生吹!」
背後から聞こえた声に思わず振り返る。数メートル先の歩道で、女の人が瀬戸くんの腕にしがみついていた。
「えっ」
足を止めかけた私に、後ろから入ってきた制作部の男性たちがぶつかってくる。
「あ、すみません」
邪魔そうな顔をされて謝りながら、私も押し流されるようにエレベーターに乗りこんだ。瀬戸くんのことが気になったけれど、ここで引き返すのも不自然だ。