溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~

* * *

視線が刺さる。出社した直後から、ちらちらと見られていることには気づいていた。それでも気にしないように、目の前の仕事に全意識を集中させる。
 
昨夜の差出人不明のファックスは、瀬戸くんが持ち帰った。私はシュレッダーにかけようとしたのだけど、いざというときに証拠になるからと、彼が保管してくれることになったのだ。
 
質の悪い悪戯だ、と眉を歪めていた瀬戸くんを思い出す。まだ仕事が残っているにもかかわらず、私を心配して一緒にマンションに帰ろうとしてくれる彼を押しとどめるのが大変だった。
 
どうにか仕事に向かわせてひとりで帰宅した私は、ずっと考えていた。今になってこんな嫌がらせをするなんて、いったい誰の仕業だろう。
 
それから一目まぶたの優しげな顔が浮かんで、動悸がした。

まさか章介さんが? それとも彼の奥さん? 
 
とにかく、あれを見つけたのが私でよかった。もし会社の人に見られていたら――。
 
そんなふうに考え込んで一晩明けた今日、事態は深刻化していた。
 
社員全員が受信する会社のアドレスに、メールが送りつけられていたのだ。

【営業部の西尾光希は、○○社の時田章介と数年間にわたり不倫している】
 
見た瞬間ぞっとした。狡猾なことに、開封せずとも目に入るようにすべて件名に書かれていて、明らかに悪意があった。
 
差出人のアドレスはフリーメールで、ご丁寧に章介さんの所属部署と役職まで記されていた。
 
誰が、何のために、こんなことを。
 
私に嫌がらせをするにしても、このメールが章介さんやその奥さんからではないことは確かだ。彼らだったら、自分たちの個人情報を明かすはずがない。
 
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