溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「モデルの件は考えてくれた?」
「お断りします」
即座に答えると、彼は眉を上げて「そう」と薄く笑った。ソファにもたれかかり長い脚を組む。
「残念だなぁ、力になれると思ったのに」
「あの、生吹さんにお会いしたいんですけど……」
大樹くんはちらりと頭上に視線を走らせた。二階に瀬戸くんの部屋があるのだろうか。そういえば、さっきからガタガタと物を動かす音が聞こえている。
「兄貴と何かあったの?」
「え?」
「兄貴のやつ、ここのところやたらとバタバタしてるから」
うるさくて敵わないよといって、大樹くんは窓の外の和風庭園を見やった。そのとき、背後から「あー!」と甲高い声が聞こえて、肩が跳ねた。
「ちょっと大樹! なんでその人を家に上げてるのよ!」
パタパタと瑠璃さんが駆け寄ってくる。
「ちょっとあなた! 帰ってって言ったじゃないの」
頬を膨らませて、信じられないというように私を見下ろす。厚い唇を引き結んだ顔は、やっぱり二十二歳には見えなかった。顔のつくり自体はハーフのように大人っぽいのに、表情や仕草がともなっていない。
「今日のお洋服は赤紫なんですね」
「フューシャピンクよ!」
かっと目を開いて彼女は訂正する。
「ウエストのドレープと裾のフリルがポイントなの! アシンメトリーで微妙なバランスが難しかったんだから!」
「とても素敵です」
実際、ほかの誰が着ても流行遅れに見えてしまいそうな服でも、彼女が着ると輝いて見える。ある種の才能だと思った。
「ははっ」と笑い声が聞こえる。見ると大樹くんが私たちを見て笑っていた。