溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「光希さん、瑠璃のことうまく手懐けてるじゃん」
「なによ、どういう意味!」
瑠璃さんが目を怒らせて大樹くんに近づいていく。
「だいたいね、この女を家に上げるなってあれほど言ったのに、どうして約束を破るのよ!」
「約束なんてした覚えはないし、ここは俺の家だからね。どうしようが俺の勝手だよ」
瑠璃さんがぐっと言葉を詰まらせた。瀬戸家の次男はつまらなそうな顔で私と彼女を交互に見る。
「それにしても君たちふたりとも物好きだよなぁ。兄貴を好きになるなんてさ」
気持ちをはっきり口にされたせいか、瑠璃さんが頬を燃やした。
彼女は本当にわかりやすい。いたずらメールの件がなければ、頬ずりして抱きしめたいくらいだ。
「兄貴は馬鹿だよ。流れに逆らわずに生きれば楽なのにさ。親の金で悠々自適な生活なんて、誰でもできることじゃないんだから」
政治家の娘だという瑠璃さんにはピンとこないのかもしれない。不思議そうに眉根を寄せて、彼の話を聞いている。
「与えられたもののなかで、最大限自由に生きる。そうすれば馬鹿みたいに働かずに、人よりワンランクもツーランクも上の生活をしていけるってのに」
「生吹さんは馬鹿じゃない」
遠くを見ていた大樹くんの目が、私に注がれる。
蛇を思わせるようなその目をまっすぐ見返して、私は言った。
「あなたの『自分で選ばない』生き方を否定するつもりはないけど、瀬戸くんの『自分で選び取る生き方』はすごくかっこいいと思う」
彼の前髪に隠れた薄い眉が、ぴくりと動いた。