溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
つまり、契約を勝ち取るために必要な武器ということらしい。
できる営業は話題の引き出しが豊富だというけれど、瀬戸くんは取引先の人間の趣味や嗜好まで完璧に把握しているのだ。
「それを全部持っていくつもりなの? どうして……」
彼は曖昧に笑って答える。
「本格的に家を出ようと思ってね。母親と縁を切る覚悟で。仕事の合間にちょこちょこ荷造りしてたんだけど、光希には先にちゃんと説明するべきだったな」
身体から力が抜けた。
彼が自宅に帰ったのは荷物をまとめるためで、メッセージがそっけなかったのは単に忙しかっただけなのだ。
崩れそうになる私を支えて、瀬戸くんが言う。
「もっとそばにいなきゃダメだと思ったんだ。光希と別れるなんて、考えられないから」
力強い声に、喉の奥が痛んだ。
会えないあいだ、心が離れているかもしれないと心配していたのに、実際はその逆だったなんて。
「兄貴……この家を出ていくのか?」
ソファに座ったまま大樹くんが瀬戸くんを見る。前髪に半分隠れた目は、どこか寂しそうだ。
「そのつもりだったんだけど……大樹。俺はやっぱり、馬鹿みたいにもがきながら生きることにするよ」
瀬戸くんはきっと、廊下で私と大樹くんのやりとりを聞いていたのだ。
「茨の道だろうとなんだろうと、光希がいてくれるなら耐えられる」
まるで一つになりたいと願うかのように、彼の大きな手が力強く私の指に絡んだ。