溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
肉体の疲労は、ときに精神にも支障をきたす。
『おばさまが手切れ金を渡したら、西尾光希は喜んでそれを受け取ったわ』
仕事の疲れでただでさえ余裕がなかった瀬戸くんの心に、瑠璃さんの言葉は思考のフィルターをすり抜けてダイレクトに突き刺さった。
真偽を確かめようと私のマンションにやってきた彼は、私のカバンに手切れ金の封筒が入っているのを見つけてしまった。
「情けねえな俺。冷静に考えれば光希がそんなことするはずないって、すぐわかるのに」
もう一度「すまない」と謝られ、私は首を振った。
瀬戸くんが感情的になったということは、それだけ私を想ってくれているということだ。
見つめ合っていると、背後から小さな咳払いが聞こえた。
「で、兄貴。あの荷物は?」
大樹くんの言葉に、私は部屋の入口を見る。
開けっ放しのドアの向こうに、見覚えのあるボストンバッグと成人男性が二人くらい入れそうな巨大なトランクが置かれていた。
瀬戸くんが廊下を振り返り「ああ」と口を開く。
「私物とか仕事に必要なものとか、光希の部屋に持っていこうと思ってまとめたんだけど入りきらなくて、まだ部屋に残ってる」
私の狭い部屋に置けるのだろうかと心配になるくらい大きなトランクなのに、まだほかに荷物があるという。
「なにが入ってるの?」
「スーツとか靴とか。本が多いかもな。経済誌と科学雑誌と、料理とかスポーツとかとにかくいろんなジャンルの。あとはカメラ関連の機器だとか掻き集めたLPだとか。取引先の社長とか役員クラスの人間が凝ってることが多くてさ」