溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「ねえ、お酒持ってきて! ワインよ! バゲットとモン・ドールのチーズも忘れないでちょうだい! うるさいわね、わかってるわよ!」
瑠璃さんはいきなり私に携帯を突き出し「ここの住所!」と咎めるように言った。おもわず携帯を受け取って、自宅の番地名を口にしてしまう。
電話の相手は「了解」とだけ答えて切ってしまった。若い男の子の声は、いつかの赤い髪の青年だろうか。
「ていうか、瑠璃さん、ここで何をするつもり?」
「うるさいわね、飲むのよ! 大樹もいつまでも突っ立ってないで上がりなさいよ!」
玄関を振り返って言うと、瑠璃さんはずかずかと廊下を進んでいった。
「なによ行き止まりじゃない!」と叫ぶ声が聞こえる。
大樹くんが「仕方ないな」と面倒そうに靴を脱ぎ、私と瀬戸くんの前を通り過ぎていく。
「瑠璃、ここが部屋なんだよ」
「嘘だわ! だってうちのクローゼットと同じ狭さだもの。こんなところに人が住めるわけないじゃない! どこかに隠し扉があるんでしょう!」
「そんなのあるわけないだろ。狭いけど光希さんはここで暮らしてるんだから」
「信じられないわ! 洋服を入れたらいっぱいになっちゃうじゃない!」
大樹くんと瑠璃さんのやりとりが耳に入って、頬が引きつった。瀬戸くんは瀬戸くんで疲れたような顔をしている。
「あいつら、飲み始めると長いんだよ。朝まで帰らない気だぞ……」
彼は寂しげな目で私を見ると「またお預けか」とつぶやいて、盛大なため息をついた。