溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~

地上から社屋を見上げたとき、瀬戸生吹のシルエットは夜空に溶けそうだった。救わなければと思った。
 
それでも、私にはわからなかった。彼が、どうしてそこまで私を求めるのか。

「そのわりに、芽衣ちゃんをここに呼んで、べたべたしてたじゃないですか」
 
口をついて出たセリフに、自分で驚いた。何を言ってるんだろう、私。

「か、帰ります」
 
カバンを拾い上げて財布を取り出そうとすると、腕を掴まれた。

「待てって。逃げないで、ちゃんと話を聞けよ」

「だって……」
 
あなたは怖いです。
なんの疑いもなく、私の心に踏み込んでこようとするから。

「あれ、どうしたんすかー」
 
背後から聞こえたのんきな声に、瀬戸生吹の手がさっと離れる。振り返ると後輩王子くんがきょとんとした顔で私を見ていた。

「野村くん、ごめん。私、帰ります」

「え、そうなんすか。じゃあ、俺送りますよ」

「野村は市原を送ってやれ」
 
瀬戸くんの声に、私は思わず振り返る。

「えーなんで俺が! メー子は瀬戸さんが送ったほうが喜びますよ」

「同期なんだから、慣れてるだろ」

「ええー!」

「ここは払ってやるから」
 
その一言がきいたのか、野村くんは文句を言いながらも手馴れた様子で芽衣ちゃんをおぶさり、タクシーに乗り込んだ。後部座席の窓を開け、「それじゃ西尾さん、おやすみなさい~」と笑顔を見せる。

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