溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
ふたりを乗せたタクシーがなめらかに通りを走りだす。遠ざかっていくテールランプを見送ってから、瀬戸くんはつまらなさそうに言った。
「まったく野村のやつ、油断ならねえ。なんのために市原を誘ったと思ってんだよ」
「どういう、意味?」
ため息をついて、彼は私を見下ろす。
「市原がめちゃくちゃ酒に弱いことは会社の宴席で知ってたから。潰れるといつも同期のやつらが交代で介抱してるんだよ」
「つまり……?」
「帰りがけに野村を追い払うために、今日は市原を誘った」
しれっと言う瀬戸生吹にめまいを覚える。すかさず私の腕をとり、彼は世にも妖しげな微笑を浮かべた。
「もしかして……嫉妬した?」
「し、してません!」
「いいかげん、素直になれって」
ぐっと肩を掴まれた。大きな手だ。瀬戸生吹のそれは、あの人よりも指が長くて形がいい。薬指に視線を走らせてしまい、そんな自分に嫌悪する。
「帰ります。それじゃあ」
「送る」
ヒールを踏み出すと、となりに瀬戸くんが並び立った。
「いいですよ、別に」
「よくない」
まっすぐ私に視線を注いで、彼は言う。
「今日は、送りオオカミになるって決めてるから」
二の句が継げなくなった。街灯に照らされてますます魅力を放つ彼を、まじまじと見つめてしまう。