溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
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「瀬戸さん、本当にすみませんでした」
畳敷きの狭い店内はお客でいっぱいだ。
瀬戸くんが連れてきてくれたそこは、仙台市内にある有名な牛タン料理の店だった。混み合う夕食時よりもすこし時間が早いからか、幸運なことに私たち三人は並ばずに入店できた。
「いや、俺もチェックが甘かったから」
私と芽衣ちゃんの正面で、瀬戸くんはふうとネクタイを緩める。運ばれてきたビールを飲む顔はどこか暗く、やっぱり疲れているように見える。
すらりとした長身を折り曲げて、相川社長に謝罪していた彼を思い出す。普段オフィスで見る飄々とした姿からは想像できないくらい泥臭い姿だった。
胸に突き刺さるようだ。大阪から仙台へ、顧客のあいだを駆けずりまわり、自分のミスではなくても頭を下げ続ける。それが彼の、営業マンの、仕事なのだ。
「私のせいで、瀬戸さんにご迷惑を……」
はじめて彼の仕事を目の当たりにして、芽衣ちゃんは相当ショックだったのだろう。
私たちの会社では営業アシスタントは基本的に社内の仕事を請け負っていて、営業と同行する機会は少ない。だから一緒に働いているつもりでも、実質営業マンがどんなふうに顧客に相対しているのかはわからない。
瀬戸くんみたいになんでも自分でやってしまう営業マンだと、サポートを必要としないぶん、余計に彼の仕事を把握できなくなる。