蛇の囁き










「────白蛇、様……?」


 私は確かにそう言った。
 気づけば頭に渦巻いていた女の声は消え、頭痛もすっかり消え失せていた。


「夏芽、もう大丈夫だ」


 そう言った加賀智さんはどこか悲しげだった。

 私は彼の横顔を見つめて、白蛇様なのですか、と尋ねた。

 加賀智さんは虹彩が縦に裂けた黄玉の瞳でちらりと私を見て、そうだよと答えた。

 私は加賀智さんの頼もしい腕に手をやって、本当の本当に白蛇様なのかなと思った。

 そうすると、突然その腕にびっしりと白い鱗が生えた。

 私は驚いてその鱗を触って確かめた。艶々としていた。

 こんなに美しいのだから本当の白蛇様に違いないと思った。



 しばらくして、周りの緊迫した空気が無くなった後、白蛇様は小さくため息をついた。

 その瞳は陰が差し込んだ青藍色をしていた。

 全身に色のない白蛇様の瞳だけが、鮮やかに、克明と、その色を変える。見る時々、一度たりとも同じ色をしていない。



 やはり人ではないのだ。



 白蛇様の瞳に魅入られる理由がやっと分かった気がした。
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