蛇の囁き
「この山にもう来てはいけない」
彼は優しくそう言った。
「人と人ならざるものは、同じ時を歩むことは決して赦されない」
何の未練も感じさせないような微笑みに、私は感情が静かに崩壊する気がして、そっと手で顔を覆った。
すぐに息苦しくなった。
何かが溢れ出て、指の隙間からそれが零れ落ちていく。
彼の言葉を嫌だと思う私がいた。
たった一週間程度の関わりで、この山に、山からの景色に、そして何より加賀智という白き鱗を持つ蛇神に激しい想いをいだくようになった。
こんな思いを未だ嘗てしたことがない。胸の奥の何かを握られているような感じでもある。