蛇の囁き
一年に二度もこの山に足を踏み入れたら、当然あの嫉妬深い山神たちの怒りを買ってしまうだろう。そうすれば私は命を取られて死んでしまうのではなかったのか。
恐る恐る覗き込んだ彼の菫色の瞳は、いつも通り穏やかで静かな優しい光を宿していた。
だからこそ、初めてこの蛇神を恐ろしいと感じた。
夏芽、とまた彼が私を呼んだ。
彼は私の腕を引いて、けれど私は抵抗しなかった。彼の顔が首に埋まり熱い息が首筋を擽って、思わず声が出る。
そこに、強く、強く歯を立てられて予想外の痛みに涙が滲んだ。いたい、と言った口を塞がれて、流される。
お互いを十分に味わった後に、もういっかい、と私は息を切らしながらねだった。
いつの間にか彼の顔に薄く浮かんでいた鱗は、滑らかな人の肌に沈んでなくなった。
彼は目を細めて私をあっさりと離し、当惑する私に微笑みながらこう言った。
続きは明日、と。