君に溺れた
大地さんの実家に着くと、家政婦さんが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。お坊っちゃん。」

「タケさん、お坊っちゃんはやめてよ。」

「何年ぶりでしょうか。タケはもう会えないかと思いました。」

「大袈裟だね。」

大地さんは穏やかに笑ってタケさんの手を握った。

家の中に入ると大地さんの両親が揃って待っていた。

大地さんはお母さんの姿を確認すると、目を合わすことなくお父さんのところに向かって私を紹介してくれた。

「初めまして。宮島真凛です。今日はお時間をいただいてありがとうございます。」

「初めまして。大地の父です。これは母。」

「お久し振りです。」

「・・・久しぶりね。」

「父さん、早速だけど、式の日程を決めたい。真凛は妊娠してる。来月には式をしたい。」

「そうか。急だがなんとか調整しよう。真凛さん体調はいいのかね?」

「はい、つわりが落ち着いて、順調です。体調もいいです。」

「そうか。それはよかった。私たちはもう孫は無理だと諦めていたんだ。孫が抱けるなんて嬉しいよ。なぁ?お前もそうだろう?」

「えぇ。嬉しいわ。・・・大地、よかったわね。仕事は順調? 」

「・・・あぁ。今度警視庁に戻る予定だ。」

「そう。お父さんのあとを追っていくのね。大地、今日は来てくれてありがとう。もう会えないと思ってた。」

お義母さんは涙を流している。

私はハンカチを差し出した。

「ありがとう。昔、ひどいことをしてごめんなさいね。あとからすごく後悔したわ。あの日、私は息子を失ってしまった。でもこうしてまた、息子に会えるのはあなたのおかげよ。本当にありがとう。元気な赤ちゃんを産んでね。」

「ありがとうございます。お義母さん。」

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