君に溺れた
仕事中、真凛と話すのは難しい。

でもきっかけは待ってるだけじゃだめだ。

作らないと。

俺は真凛が仕事を終えて更衣室から出てくるのを待った。

「あっ。佐藤先生、あの・・・」

「このあと時間ある?」

「えっ?」

「食事しない?」

「すみません。今日は予定があって。」

「ふ~ん。彼氏?」

「えっ?あの・・・はい。」

「わかった。下まで一緒に行こうよ。」

「あ、はい。」

真凛とエレベーターに乗る。

「1階でいい?」

「あの、地下でお願いします。」

「そっかぁ。車でお迎えか。彼氏優しいね。」

「えぇまぁ。優しいです。なんか彼氏って連呼されると恥ずかしいですね。まだ誰にも言ってなくて。今日、大地さんが中学からの友人を紹介してくれるみたいで、どう思われるか心配で。今日の服、変じゃないですか?」

「・・・変じゃないよ。真凛は肌が白いから淡い色の服がよく似合う。唇も、元々赤いから口紅なんて塗らなくても綺麗なのに・・・」

エレベーターは地下に着いて扉が開いた。

すぐそばで、男がスマホを手に待っていた。

俺たちと目が合う。

真凛がエレベーターを出ようと歩きだした。

俺は真凛の腕を掴んで引き寄せる。

エレベーターの『閉』ボタンを押しながら真凛を抱き寄せた。

「彼氏のところには行かせたくない。」

「えっ?」

俺は真凛に無理矢理キスをした。

エレベーターの扉の奥で彼氏が真凛を呼んでいる。

「っつ!」

「はぁーはぁーやめて下さ・・・」

真凛が俺の口を思いっきり噛んだ。

唇から血が流れる。

「佐藤先生、ごめんなさい。」

「・・・こんな風に傷つけたかったわけじゃないんだ。ただずっと真凛は俺のそばにいてくれると思ってた。真凛、お前を愛してる。」

「先生・・・」

エレベーターの扉が開く。

俺は思いっきり頬を殴られた。

「2度と真凛に近づくな‼」

「・・・いて。」

俺は殴られた勢いで床に座り込む。

彼氏が真凛を車に連れていく。

「真凛!!行かないでくれ。頼む・・・」

真凛は一瞬振り向いた。

目にいっぱい涙を溜めている。

俺は今日、真凛を失った。

真凛を傷つけたかったわけじゃない。

真凛を優しく包んで幸せにしたかった。

真凛、ごめん・・・。


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