キャラメルと月のクラゲ
彼は何も言わなかった。
他のオトコのヒトなら怒って部屋を出ていくか、私の全てを拒否するだろう。
けれど、彼は何も言わなかった。
それどころか脱ぎ散らかした服を私に着せてくれた。
世話のかかるコドモみたいに。
帰るの?
とバッグを持った私の背中に彼は投げかけた。
送っていくよ。
と言われて私はただ、うん、とうなずくだけだった。

***

その帰り道、僕達はほとんど言葉を交わさなかった。
付き合っていたのかさえわからないこの関係が終わりなのか、始まってすらいなかったのかわからないまま、僕達は歩いた。
駅前の広場を、彼女の部屋まで続く並木道を。
深夜の国道は車の通りもまばらで信号待ちすら億劫だった。
どうしてこんなことになってしまったのかも思考が停止して考えられず、僕はそのまま彼女と歩き続けた。

***

「私達、付き合ってないからこれからも友達でいてくれるよね」
「僕達、付き合わなかったから今までみたいな友達でいられるよね」
「きっとこれがキミとの運命だったんだと心の中で思っていた」
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