偽りのヒーロー

action.2




 花屋のバイトは朝が早い。
朝の6時にはお店に行って、水揚げや水替えをする。

店長はもっと早い時間に仕入れに市場に向かっていると聞いて、頭の下がる思いだ。4時から仕事の始める日もあるというのだから驚きだ。


まだバイトとして入って数か月だけど、なかなかこれが重労働だ。


水を扱う手仕事は手が荒れるし、水の張ったバケツはなかなかに重い。

花束はさすがにこしらえることができないけれど、アレンジメントを彩るブーケのリボンは器用な手先が、性にあっていて褒めてもらえて嬉しくなる。
数多く花に囲まれる時間は、目にも心にも癒しを与えてくれて、やりがいもある。



「菜子ちゃんが入って来てくれて良かったよ! 仕事覚えもいいし、よく動いてくれて助かるよ」

「そうよね。私がこんな身体だから、重労働は少しきつくて……」



 花屋を営む夫婦は、気の良さそうな人で、バイトのある土日がいつも楽しみだ。奥さまがおめでたで、身重になったのをきっかけにバイトの募集をしたと聞いた。


 初めて書いた履歴書は、B4のサイズに書き込むだけで1時間以上もかかってしまった。

一字一字丁寧に記入したおかげで、メッセージカードなどの名札や、POPを描くのを任せてもらったりして、こんなところで字の上手さが役立ったことにホクホクだ。



「すっかり看板娘ね。菜子ちゃんがいる日は売上もいいのよ」



 豚もおだてりゃ木に登る、とはまさにこのことだ。おだてられると張り切って仕事に臨む。

うまいこと扱ってくれるので、気持ち良くバイトができ、自然と笑顔も増えるような気がしていた。



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