偽りのヒーロー



 すみません、と表に佇む客には見覚えがあった。



「あ! 結城くん。いらっしゃいませ! えっと、どうしたの?」



 同じクラスの結城紫璃(ゆうき ゆかり)。

クラスメイトではあるものの、あまり砕けた話をする仲ではない。

しかしながら、有名人として名を馳せる結城は、容姿端麗なこともあり、目立つ生徒と言ってもよい。

会うはずのない学校のない休日の偶然に、思わず挙動不審になる。



「どうって、花、買いに来た。……これって切り花もあんの?」



 結城が指を指した花はゼラニウム。ポットに入った小さな苗を指して尋ねてくる。



「あるよー! 最近切り花も入荷したんだよ! 一本刺ししてテーブルとかに飾る人も多いんだよ」

「じゃあ、それ。……その、白いやつ」

「はい、ありがとうございます。……お目が高い、ね!」



 クラスメイトらしく軽口を叩くように振る舞う。

自宅用に包んだゼラニウムを包んでいると、まじまじとその光景を見つめている結城。
大したことのない日常の作業のはずが、注目されるとぎこちなくなってしまう。




……ぎこちなくなってしまうのには、もう一つ理由があった。



「結城くん。この前さ、あの……ごめん」



 左右に視線を泳がせて、本人と目を合わせることができなかった。



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