偽りのヒーロー



 大ごとになっていると、菜子の身体を揺らして起こす。

なかなか動こうとしない菜子の手を引っ張て無理やり家に連れて帰った。

すぐさま親に電話をすると、菜子のお父さんが鬼の形相で雷を落としていた。と、同時に、お前までいなくなるな、と震えた身体で、菜子を抱きしめていた。





 優しく笑う、未蔓の親が頼りない男だと話す菜子の父が、怒りに震えるところを初めて見た。

それと同時に、まだ年端もいかない女の子が、凛とした目で、大きいけれど小さくなった父の背中を決意したように握りしめるところも。

小さな頃から見てきたはずなのに、全部、初めて見る菜子だった。



 それから菜子は、無意識なのか、よく笑うようになった。いや、笑うのはもともとのことかもしれない。

しかし、感情をあまり表に出さなくなった。人の顔色をいろんな意味で窺うようになって。



 張りついた笑顔は、昔と同じ可愛らしい笑顔に戻りつつあるとは思う。けれど、寂しいとか悲しいとか、そんなことを口にしなくなった。

いつも笑顔でありたいと、何かを後悔したように笑顔を浮かべる菜子を見ると、未蔓は胸が痛くなった。









「菜子がヒーローって、なんかうけるな」



 レオの言葉にハッとし、未蔓は我に返る。よかった、菜子の話していないことを、ぺらぺらと話してしまうところだったと、目をごしごしと擦った。



 授業が始まってすぐ眠りに落ちてしまうレオが、長々とした未蔓の話に興味深そうに耳を傾けていた。目を輝かせて、まるで小さな子どもみたいな目をしている。



「ま、でもヒーローってやっぱ特別よな!」



 満面の笑みを浮かべるレオは、女子が賑わう卓球台に視線を向けていた。

その視線を、未蔓がこっそりと辿っていたことには、全く気付いていないようだった。


< 161 / 425 >

この作品をシェア

pagetop