偽りのヒーロー



「……好きじゃない、のかも」

「え?」



「菜子。今考えれば、わかることなのに。
私、一之瀬くんのことで、菜子に八つ当たりしちゃったの。喧嘩して……。
それからすぐだった。菜子と結城がつき合ったの」


「好きじゃないなんて、話が飛躍しすぎてない? それとこれとは関係ないでしょ」

「菜子は、つき合ったことないんだって。告白の返事の仕方もよくわからないで、つき合ってる」

「そういう始まり方だってあると思うよ。どうしたの? おかしくなんてない」

「菜子って、いつも笑ってるでしょ」

「うん? まあそうかもしれないけど、結構泣いたり怒ったりもしてたような……。あ、高校入ってからってことか」



 原田の一票に投じたい。レオの胸中はそうだった。

確かにへらへら笑っているけれど、人にカッカッと怒りをぶつけておきながら、その上けろりと喧嘩したことも忘れていた。

泣かせたのは想定外のことだったが、ぐずぐずと泣いてまるで女みたいなところもある、のに。



「私、菜子が彼氏欲しいって言ってて、別にそれはなんの問題もないの。でも、なんて言ったらいいんだろう、なんか、すごく変な感じっていうか。結城といても笑ってるだけで、その……」

「うん?」

「菜子は我慢するのが上手いから……」

「……無理につき合ってるって?」



 無理に。好きというより、絶好のタイミング。

なんだよ、いきなり紫璃とつき合ったのかと思ったのは、そういうことだったのか

。レオの中では妙に腑に落ちていた。相変わらず菖蒲のいうことはあまり理解ができていないが、何かにつけて、菜子と紫璃の仲に違和感を覚えている、そういったところだろう。



「菜っ子がそう言ったの?」

「……ううん」




「菖蒲ちゃん。それはあまりに失礼だ。結城にも、菜っ子にも」



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