偽りのヒーロー



 控えめに手を振る女性が、遠巻きながら可愛らしい。


原田は年末年始にかけて、どうにか菖蒲と会えないものかと画策していた。

わずかながら距離が縮まったとは思っているものの、外で、尚且つ一体一で会うにはハードルが高い。



菜子の協力のもと、複数人で遊ぼうと計画を練った上で、原田に内緒でドタキャンしてくれるとはなんとも度胸のある友人だ。

風邪を引いた、と下手くそな言い訳に添えられた陽気な絵文字は、バレて当然といった文面であった。にも関わらず、こうして隣を歩くことを許可してくれるということは、もう一つ上のアクションを起こすにはうってつけの時期かもしれない。



 ハートフルな動物の出てくる映画に、心温まるも隣に座る菖蒲のことが気になって、原田は映画の内容を思い出せずにいた。



 隣に当たり前のように座ったり、ひじ掛けにのせたときに触れた腕。暗闇の中でもはっきりわかるくらいの近い距離。


デートかと錯覚しうるこの状況に、原田は浮かれてしまっていた。上手く話せているかと心配になった二人きりの時間も、菖蒲の顔に笑みが浮かんでいたように思う。



「原田くん、せっかくだからご飯食べに行かない?」



 菖蒲からの誘いに、つい原田は耳を疑った。

空気も読めず、「え?」と目を見開くと、恥ずかしそうに、菖蒲が俯いているのが見えた。



その手をとる勇気はまだなくて、薄暗くなった道を、隣に並んで歩いていた。



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