偽りのヒーロー
捲ったワイシャツの袖から見える腕には、たしかにぷつぷつと鳥肌がたっていた。それをおさめるように、鳥肌がたった腕を逆の手のひらで擦っている。
「なんなの」と口を尖らせた菜子に、くくっと笑って、呼吸を整えているようだった。
「菜子は俺のこと好きでしょ」
すいぶんと自身満々に言うそれは、確かな事実。うん、と頷けば、納得したように言葉を続ける。
「好きにもいろいろある」
「うん……?」
「家族、友達、恋人」
「……うん」
「今のこれは、家族みたいに思ってる人に恋人みたいな台詞言われたから鳥肌たった」
「えっと……」
「レオの好きはどれだった? 友達? 恋人?」
未蔓の問いには応えられなかった。
確かにレオのことは、好きだけれど。それとこれとは違う問題、と決めつけている。というよりも、あまり考えないようにしている。
流れに身を任せてしまえば、どうにかなってしまいそうで。でもそんな主体性のないことからは、卒業したいのに。
「それとも何か他に理由があるとかね」
空になったアイスの容器を噛みながら、未蔓は手を軽く上げ、エレベーターから降りていった。