偽りのヒーロー



「最低だ」



 実際に言われてみると、兎にも角にもひどくショックを受けてしまった。






 例えば、中学のときの部活。

一つ年上の先輩の人数が少なかったから、副キャプテンを引き受けた。一年後、キャプテンなんてやりたくもなかったけれど、部員の多数決で指名されてしまった。

ちょっと嫌だな。
そう思って、私がやらなかったらどうするんですか、とこっそり先生に訊いた。

返ってきた答えは実に簡単なもので、お前がやらなかったら他のメンバーから選出するしかないだろ、と言われた。





 もしあのとき、嫌だって言ったらどうなっていただろう。

あまりはっきり言うほうではないけれど、なんでもかんでもいいよ、というわけでもない。けれど、自分がやりたくないと言ったときの、次に引き受ける人の気分ってどうなんだろう。

棚からぼたもち。ラッキーだなんて思ってくれたらいいけれど、きっとそんなふうに思う人、少ないのではないだろうか。




 やれって言われたから。

引き受けなかった場合に揉めるのが嫌だから。



そんなふうに逃げ道を作っていたことを指摘されたのは驚いた。いろいろ理由をつくっては、自分を透明な厚い防護壁で防護する。

透明だから、あまり人に気づかれることもない。自分が傷つくリスクを減らして、いつも脇道を探してる。

上手くできなかったときのあたりが柔らかくなるように、ずるいことをしているだけ。




 思えば、ずっとそんな性格。真っ直ぐ何かに手を伸ばせない。

それが母が他界してからは、一層色濃くでてしまった。それだって、言い訳かもしれない。


けれど、まっすぐな感情が、眩しい。


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