偽りのヒーロー



 雪が降っている。

レオに初めて好きだと言われた日のように。

花の咲いていない公園。草木にわずかに降り積もった雪が、白い花を咲かせているかのようだ。




 手に持っていたはずのミルクティーは、レオが菜子を抱きしめた反動で、地面に転がり落ちてしまった。寒空の冬の匂いに、微かに漂う甘い香り。

抱きしめられたレオの身体が熱を帯びて、菜子はちっとも寒くはない。



「雪降ってるね」

「……うん」

「つつじが咲いたらまた来よう」

「……うん」

「そしたら夏はひまわりが見たい。秋は紅葉を見たいし、冬はカランコエが見たいな」

「? うん、調べておく!」

「ふふ。そしたら春は桜が見たいし、菜の花もみたい」

「うん。どこでも連れてく」

「そしたら次の夏には朝顔が見たい」

「……それは、ずっと一緒にいてくれるってこと?」

「ふふ、うん。一緒にいたいの。レオと。レオが好きだから」





「当たり前だろ! 言われなくても一緒にいる! だから、」

「……ん?」

「菜子。俺のこと幸せにして」

「ふふ、女の台詞みたい」

「俺も菜子のこと幸せにする。だから、ずっと一緒にいて」

「ん。約束」



 そうやって、砂糖みたいな甘い言葉を呟いて、もう一度、触れるだけのキスをした。

レオの伸びた前髪がさらさらと顔に当たってくすぐったい。見つめ合うように目を細めると、緩んだ顔が愛おしい。

欲が出る。

レオといると、手を繋いだだけで、キスしただけで十分なのに、もう離れるのが怖くなる。





 
 約束するとか、そんな、普通の未来の話。

当たり前のことに胸が熱くなる。

縋った手は離されない。握りしめれば、もっと強く温かな手に包まれる。
 


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