偽りのヒーロー
大事な人を失った苦しみはあまりにも大きくて、偽りの仮面をつけて、立ち上がる。
弱い自分をひた隠しにするための、武装の仮面。
仮面が必要なくなったことに気づいたら、傍にいたはずの愛しい人がいなくなっていた。
傷ついたのは、自業自得。
あまりにも偽りの仮面をかぶることになれすぎて、自分の本心を見失ってしまっていた。
それでも立ち上がるようになれると、今度は新しく人を好きになることを知ってしまった。
それも、自らの手で壊した後で。
傷がいえたと思ったら、また新しい傷ができる、八方ふさがり。
傷ついてばかりのヒーローは、どうやら次々と大切な人の手を放して、壊していく。
人を助けることもままならないヒーローは、いつしか戦闘を放棄した、腰抜けの正義。
情けない、不名誉の傷を持つ名ばかりの正義に縋る、助けを求めた人こそが、ヒーロにも思えてくる。
なんでもいい。
この人が笑ってくれたら。
泣いたって、怒ったって、それでいい。
レオの全部が見られるなら。
今を生きるのが精いっぱいだった菜子が、いつしか、未来を生きたいと思うようになっていた。
「立花先生〜」
「はい!」
職員室の一角で、職員会議に呼ばれている。
まだ新米の、国語の教師。机の上のデスクマットには、笑顔の写真が並んでいた。
教卓に置かれた指導案には、担当者の教師の名前が記されている。
立花菜子
夕暮れの日差しが、スポットライトのように、その名を煌々と輝かせていた。
