偽りのヒーロー
生温くなったバナナチョコを食べながら、「お父さんもビールの一杯くらい飲めば?」という菜子の言葉に甘えて、父はごくごくと喉越しを堪能しながらビールを煽っている。
「夏祭りで飲むビールは格別だなあ」
人気の途切れる場所で、道の縁に沿った石に腰かける。焼きそばを買って食べて、歯にぎっしりと詰まった青のりを見せてくる弟にげらげらと声をあげて笑った。
父が美味しそうに飲む黄金色に光ったビールを飲みたいと駄々をこね、大人になってからだとなめす父は骨が折れそうだと言う言葉のわりには、ニコニコと微笑んでいた。
お腹がいっぱいになったあとには、やや足取りの重くなる菜子にとって、射的やスーパーはボールすくいをやりたがる弟の体力には感服しっぱなしだった。
「ヨーヨーつりやりたい!」
目をキラキラさせて、ぷかぷかと色とりどりのヨーヨーが浮かんだプールの前に腰を下ろした。
屋台のおじさんにお金を渡すと、こよりの先に釣り針のついた、いかにも貧弱そうなものを差し出される。
水にそよそよ泳がせては、重みに耐えられないよ、という言葉は既に遅くて。
「ぜんぜん、とれないー…」
今にも泣き出しそうな楓に、「これは?」と、端っこにぷかぷか浮かぶ、獲りやすそうな紫色のヨーヨーを指さした。バイト先で扱っている、紫に白い模様が入った、クロッカスみたいな綺麗な色の。
「……こっちのじゃなきゃ、やだ」
駄々をこねる小さな弟に、菜子と父は眉毛を八の字にして顔を見合わせる。青紫みたいな色に、マゼンダや白い模様が入ったヨーヨー。
それは、母が好きだと言っていた、朝顔みたいな色をした。
なけなしの3回目のこよりを切れさせたところで、色とりどりのヨーヨーがぶかぶか浮かぶ釣り堀の前に佇んでいた。
申し訳なさそうな屋台のおじさんを前に、頑として動かない。